SDGsと出会って仕事が変わった 若者と大人のギャップに危機感、今やらなければ (後編)

SDGsと出会って仕事が変わった 若者と大人のギャップに危機感、今やらなければ (後編)

(前編から)マクドナルドの定番商品の一つ、フィレオフィッシュのパッケージには、2019年からMSC認証ロゴが表示されています。ロゴ表示に至るプロセスについてのお話に続き、SDGsという新しい課題との出会いについて聞きました。(前編を読む)

 

パートナーシップの相手が広がる:異業種、NPOとも「まず対話」

──岩井さんご自身は、長くこうしたテーマを扱ってこられたのですか?

いいえ、CSR部門に来てからです。私は1984年に入社して、37年間ずっと日本マクドナルドにいます。営業、開発、マーケティングなどいろいろな部署を体験して、店舗の監査もしました。CSR部門は2014年9月からです。

──SDGsが発表されたのは、岩井さんがCSRに移られた後になるでしょうか?

そうですね。2015年9月25日にSDGsが採択されて、最初はまだ英語版しかなかったので、グーグル翻訳を使ったりして勉強しました。

その出会いのインパクトはすごくて「SDGsがなければ、平和なサラリーマン人生をまっとうできるはずだったのに」と(笑)。

──それはすごいですね。どんな影響が?

それまでの考え方や仕事のしかたを、一挙に書き換えられる感がありました。もちろん、それまでの仕事だってやりがいはあったし、真面目に取り組んでいました。でも、仕事の考え方や、やりがいが大きく変わったことは間違いありません。

私自身もCSRに入る以前からずっと、お店のまわりの掃除に始まって、いろいろ小さな取り組みは体験してきました。マクドナルドの掲げる「スマイル0円」の「笑顔」という目標とも、大きな流れとしては一致しています。マクドナルドにとってSDGsは、全く新しいことではなかったので、受け入れやすい土壌があったかもしれません。

でも、それが17の目標という明解な形で表現されていて、しかも全世界で共通。このわかりやすさ、一貫した明解さはすごいことです。

──岩井さんはSDGsに関連して、他の企業ともコミュニケーションされるとのお話でした。他社で同じような取り組みをされている方に伝えたいことはありますか?

マクドナルドとしての「おいしさと笑顔を地域の方々に」という大きなパーパスがあって、自分はそれにのっとって取り組んできただけですが……その中で大事にしているのは、ダイアローグ、対話ですね。これは他社の方にもよくお話しします。

自分たちと違う業種でも、NGO、NPOでも、自治体でも、まずはシャットアウトすることなく、話を聞きましょう。「いろんな方とお話ししてください、それが大事です」と。

17あるSDGsの目標のうち、マクドナルドとして特にフォーカスしている6つの中に、17番「パートナーシップで目標を達成しよう」があります。今までの私たちなら、パートナーとはサプライチェーンやオーナー、オペレーターなどでした。

そこに今は、協力会社はもちろん、自治体、関係省庁、NGO、NPOも入ってきます。お話しした「どんな相手もシャットアウトせずに対話を」ということですね。その大切さは個人的にも実感しています。

 

さまざまな活動と、SDGs各項目との関係。最上段「持続可能な食材の調達」最も多くのSDGs項目と関わる(2020年CSRレポートより)

 

サステナブルは未来への投資。若い世代に選んでもらうために

──フィレオフィッシュにMSC認証ロゴが表示されるようになって、1年半経ちました。その後の反響や成果はいかがですか?

MSC認証も、FSC認証もそうですが、「ロゴをつけたことで目に見えて売り上げが伸びる」というものではありません。お金をかけても、効果をわかりやすく示すことは難しいのが正直なところです。でもそれは、MSC認証の取得や維持にかかるお金をコストと考えるからです。

いろいろな企業からも「どこがコストを負うんですか?」と聞かれますが、「認証の取得や表示にかかる費用は、コストではなく、投資です」と答えています。コストから投資への転換、という経営判断が必要です。

今の中高生、Z世代、ミレニアル世代は、生まれたときから気候変動を身体で実感して、SDGsを常識として身につけています。この人たちが今後、マクドナルドでアルバイトしたり、社員になってくれるのです。

彼らは今までの大人と違って、気候変動や環境問題に敏感ですから、就職するときは環境問題に積極的に取り組む企業のポイントが高いし、食事するときも環境に配慮したお店を選ぶ感度があります。

そのとき、マクドナルドなら「MSC認証のロゴがついていて、安心して美味しく食べられる」と知っておいてもらう──それは今からやらないと間に合いません。

ミレニアル世代に認めてもらうことは、売り上げにも関連しますが、むしろ環境に配慮している会社として認められることの方が大事なのです。

MSC認証ロゴは、マクドナルドのバリューチェーンを表しているんです。マクドナルドが提供する「笑顔」は、今までは買ってくれる、食べてくれる人、お店に来てくれる人が中心だったかもしれない。それを従業員の笑顔、生産者、工場で働く人、その家族にも広げる。その総合を、集約して伝えているのがMSC認証ロゴです。


2020年8月、日本マクドナルドが日本サステナブル・ラベル協会と共催した、全国の学生対象のオンラインワークショップ「JSL Youth Club withマクドナルド」のグラフィックレコーディング

 

業種の違いを越えた連携で、広く伝えたい。2021年はチャンス

──これから、どのような課題や活動をお考えですか?

環境活動には、3つのステップがあると考えています。「親しむ・知る」「学ぶ・伝える」「行動する」です。これからはその中の「伝える」に、もっと力を注いでいきたい。

MSC認証ロゴなら、ロゴをつけた商品を選んでいただくことで「海の資源を守っているんだ」とわかる、それをさらによく伝えていく方法を考えたい。

そして、SDGs関連の課題はどれもそうですが、MSC認証もその背後には環境問題、人権問題、生物多様性などの問題がある。それを上から啓蒙するのでなく、いっしょに知っていくことが大事だと思います。

それにつけてもMSC認証自体の認知度が問題で、それはマクドナルドが単独でできることではありません。横のつながりが、絶対に必要なんです。

たとえば、日本でMSC認証品を扱い始めている小売りやスーパーマーケット、そういったところがバラバラに活動するのでなく、一緒に取り組むとか。

最近になってSDGsはテレビでも取り上げられるなど、話題になってはきました。でも、まだまだ解決策の話題は少ない。MSC認証ロゴの表示はその解決に向けた貴重な一歩です。これを30代以上の大人にも伝わるように伝えたい。

例えば2021年10月には、去年から延期になった、国連生物多様性会議の開催が予定されています。こうしたイベントは、SDGs関係のテーマを発信するチャンスなので、こうした機会を逃さずに、NPOやさまざまな団体と連携して発信していく企業がもっと増えればと思います。

 

岩井 正人
1984年日本マクドナルド株式会社入社。店長、また複数店舗の統括者として、お客様に「最高の店舗体験」をご提供すべく尽力。その後本社に異動、マーケティング部門、新商品開発担当を経て2014年9月よりCSR部にて環境関連を担当、2015年国連サミットの「持続可能な開発目標(SDGs)」採択に衝撃を受ける。2021年7月現在、全国約2,900店舗のマクドナルドとして社会的責任を果たすべく、サステナブルラベルの取得、SDGsの啓蒙など、地球環境に貢献する活動を推進。

取材・執筆:井原 恵子
総合デザイン事務所等にて、2002年までデザインリサーチおよびコンセプトスタディを担当。2008年よりinfield designにてデザインリサーチにたずさわり、またフリーランスでデザイン関連の記事執筆、翻訳を手がける。