シンポジウム2017総括レポートー3 ホールAハイライト

10月に行われたサステナブルシーフード・シンポジウムのレポート第三弾、今回は午後行われた分科会のうち、異分野からのパネリストを多くお迎えしたRoom Aのハイライトをレポートします。
「観光ビジネスをリードするサステナブル・シーフードの取り組み」
Room Aは、オーシャンアウトカムズ日本支部長の村上春二氏によるファシリテーションで「観光ビジネスをリードするサステナブル・シーフードの取り組み」と題したセッションで幕を開けました。「2020年までに、日本への海外からの観光客は3000万人を越えることが想定されている。それに向けて日本がどうイニシアチブをとって、サステナブルシーフードでお客様をお迎えできるか」(村上氏)という課題に対し、観光業に携わる3名のパネリストがそれぞれの挑戦や考えを述べました。
まずサステナブル調達に取り組むカナダ・バンクーバー水族館のオーシャンワイズ総料理長のネッド・ベル氏。「自身はシェフであり、意識の高い消費者でもある。シェフとしての責任はもちろん、海を守るためには、パートナーや消費者などとのチームワークが必須。批判を全面に出すのではなく、ひとつひとつの活動が海の未来に影響を与えているという思いを共有しながら、最良の選択肢を追求していきたい」と話しました。
パークハイアット東京資材部マネージャーの田口朋浩氏は、FIP・AIPのサポートの一例として6月から国内全館で提供を開始した東京湾のスズキの例に触れ、「的確な情報を提供してくれるNGOなど、外部機関との連携は有意義。ホテルでの提供を開始した当初に比べ、サステナブルシーフードって何?というお客様が確実に増えてきた。問題点が今後もっと広まっていけば良い」との見解を延べました。
そして一見「異業種」にもみえる航空業界から、ANAホールディングス・コーポレートブランド・CSR推進部部長の宮田千夏子氏をお迎えしました。ANAは、機内食を中心に「食の見える化」に取り組んでおり、その取り組みの一端として、食に関するサプライチェーンのネットワーク構築を目指す「ブルーナンバー・イニシアチブ(ニューヨーク・ブルーナンバー財団)」に、日本企業として初めての参画を決めています。これは生産者情報を生産者自らが開示する仕組みで、トレーサビリティの確保や生産者の育成にもつながる活動であるとし、「日本企業はやるならば100を目指さなければ、となりがちだが、この活動はまずは0よりは10、20、とできる方法で一歩ずつすすめていくやり方。異業種が取り組むことによって、発信機能も果たせるのでは」と展望を語りました。またANAが2020年のオリンピック・パラリンピックのローカルパートナーになったことに触れ、「オリンピックは人々の意識を変え、レガシーとして残る好機と考えている」との力強い言葉を頂きました。
「国際水産企業が描くシーフードビジネスの長期ビジョン」
ストックホルム・レジリエンス・センターのヘンリック・オスターブロム氏のファシリテーションで、日本水産・養殖事業推進部部長・屋葺利也氏と、マルハニチロ経営企画部部長役長谷川泰裕氏という、日本に拠点を構える世界最大の水産企業2社が登壇。この二社は、2016年に発足したSeaBOS(海洋管理のための水産事業)という大手国際水産企業が集まる非競争連携プラットフォームの創設メンバーであり、世界の水産業に多大な影響力を持つ「キーストーン・アクター」の一員として世界規模での持続可能な水産業実現に向けてのリーダーシップが期待されています。(SeaBOSについては過去のブログをご参照ください。)現在、SeaBOS内に設置された4つのタスクフォース、「IUU漁業と奴隷・労働問題の解決」、「トレーサビリティと透明性の向上」、「規則・標準化の推進」、「戦略立案と実施」の実現に向けて、世界最大の水産企業が非競争的なビジネスプラットフォーム上で協議を重ねています。SeaBOSのファシリテーターを務めるオスターブロム氏は企業間の社会的生態系に科学的なアプローチを用い、世界の水産業界に最も大きな影響を与える大手企業を生物生態学における「キーストーン種」にたとえ、これらの大手企業のイニシアチブの重要性を説いた上で日本水産、マルハニチロ両社が持続可能性実現に向けた取り組みについて紹介しました。
日本水産の屋葺氏は自社の事業にとっての重要度、そしてステークホルダーにとっての重要度の2つのマトリックスでCSR活動を精査した結果、日本水産のCSR活動が目指すものとSeaBOSの理念がリンクしていることを紹介した上で、自社の調達方針やグループにおける水産資源の取り扱いの調査を開始し、CSR活動が本格化してきていることを紹介しました。こうした活動はすでに大きな成果を上げており、早ければ2018年初旬から自社のCSRに基づいた新しい調達方針を展開していくことを発表しました。
マルハニチロの長谷川氏もSeaBOSの活動を通して、SDGs(持続可能な開発目標)の実現を目指すことを表明しました。そして持続可能性を達成するためには「守りのサステナブル」と「攻めのサステナブル」の2つのアプローチが必要とした上で自社の取り組みをご紹介されました。
「異業種と共につくるサステナブル・シーフード・ビジネス」
午後最後の分科会は、IKEA、IHI、KDDIという一見シーフード業界では異業種ともとれる3つの組織からのパネリスト3名を迎え、日経エコロジーの藤田香氏のファシリテーションで進行しました。
まずイケア・ジャパンCountry IKEA Food Managerの佐川季由氏は、IKEAは創業間もなく「お腹が空いている人に対してビジネスはできない」という創業者の理念から、フードサービスの提供を始め、以降再生エネルギーへの貢献(日本では70%以上)など、環境と社会に配慮したビジネスを行ってきたことを紹介。シーフードに関しては、2020年までにMSC認証の商品取り扱い100%を目指しているとしました。「低価格でなければ多くの人に提供できないので、低価格でありながら、安心安全を提供したい。まだMSCの認知度はそれほど高くないが、ヘルシーであることや、トレーサビリティに対する顧客の関心は高いのでポテンシャルはある」と述べました。

左から:日経エコロジー・藤田香氏、イケア・ジャパンCountry IKEA Food Manager・佐川季由氏、IHIジェットサービス取締役・衛星情報サービス部長・川辺有恒氏、KDDI ビジネスIoT推進本部地方創生支援室マネージャー兼KDDI総合研究所・福嶋正義氏
IHIジェットサービス取締役・衛星情報サービス部長の川辺有恒氏は、「衛星を上げるだけでなく、そこからとれたデータを使って宇宙をもっと利用できるよう、宇宙ビジネスに取り組んでいる」とし、衛星を使った世界の船を追跡するシステムについて紹介。来年までにはほぼリアルタイムに日本の排他的経済水域外で操業している外国籍や小型漁船も含め、全ての船の位置が把握できるようになるとし、海難事故対策だけでなく、トレーサビリティにも役立ててもらいたいとの見解を示しました。
そして通信業界からは、KDDI ビジネスIoT推進本部地方創生支援室マネージャー兼KDDI総合研究所の福嶋正義氏が登壇しました。自身が東日本大震災で被害を受けた東松島市に2013年に出向した際に、高台移転をした漁師たちが1時間近く港まで車を走らせた結果、定置網に魚がおらず引き返すこともあると知り、携帯の電波を使って魚の水中の様子をモニターする仕組みを試験的に導入。その後、総務省のIoT事業の一端として、定置網内の魚や温度をセンシングして翌日の漁獲量を7割ほどの精度で予測するシステムを構築したことを紹介しました。
このように異業種がそれぞれの強みを生かしながら、サステナブルシーフードの分野に参入することで、新しい水産業やトレーサビリティの仕組みが生まれていくのでは、とファシリテーターの藤田氏は締めくくりました。
次回はもうひとつのRoom Bで行われた分科会のハイライトについてご紹介します。

日本の食文化をつなぎたい。 料理人と共に学び、 信じた道を走り続ける

エシカルなツナ缶をめざし 日本の金融機関が応援するタイ・ユニオン

餌から考えるサステナビリティ。 魚に魚を食べさせる養殖からの脱却

テクノロジーで暴く SDGsターゲットの一つIUU漁業

生協の社会的役割。 組合員とつくる 豊かで持続可能なくらし。

1000年続く モルディブ一本釣り漁業が切り拓く 三方良しブランディング

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やり始めたら、やり切るしかない。 理念を胸に進む、 食を通じたサステナビリティへの道

自然へのゾクゾク感が原点。 企業活動と自然をつなぐ、 ESGの可能性

社員の消費行動変革を通じた新しいCSRのカタチ。社食を活用した「食べる社会貢献」

対話なくして前進はない。一方的な規制ではなく、耳を傾ける努力を

日本の豊かな海と食を誇れるように。飲食店から伝える海の今

日本らしい資源管理を模索。魚食文化を次世代に引き継ぐために

世界で戦える漁業を次世代に残す。地域の暮らしを守るため

世界最大の漁船「アラスカ・オーシャン」に乗船。ベーリング海でのサステナブル漁業の実態に迫る

モントレー水族館がサステナブルシーフード界を牽引する秘密
