「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」の要点まとめ

「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」の要点まとめ

2022年12月1日、「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(通称:水産流通適正化法)」の施行が開始されました。この法律は、日本国内の水産マーケットにIUU(違法・無報告・無規制)漁業による水産物の流通を防止することを目的に制定されました。本法は日本市場に流通する水産物がルールを守って漁獲されたかを確認するものであり、日本の水産業界のサステナビリティにとっても、2018年の漁業法改正に次ぐ大きな転換点にもなっています。

 

なぜ重要?制定の背景と意義

水産流通適正化法は、その第一条にもあるように「この法律は、国内において違法に採捕された水産動植物の流通により国内水産資源の減少のおそれがあること及び海外において違法に採捕された水産動植物の輸入を規制する必要性が国際的に高まっていることに鑑み*1」て制定され、国内において違法かつ過剰な採捕が行われるおそれが大きい魚種を「第一種」、海外から輸入され、IUU漁業のおそれの大きい魚種を「第二種」*1として規制対象としています。

第一種にはナマコ、アワビ、シラスウナギ(シラスウナギは令和7年12月1日〜適用開始)、第二種にはサバ、サンマ、マイワシ、イカが選定されています。第一種、第二種ともに原料だけでなく加工品も対象となっています。

 


今回の施行で規制対象となった魚種(作図:シーフードレガシー)

 

なぜこれらの魚種が指定されたのでしょうか?

まず、「第一種」の基準は以下のように定められています。

①漁業関係法令違反の件数が多いものや、単価が高い等違法漁獲により不正の利益を得やすいものであること
② 生産額が一定規模以上あり、容易に流通過程に混入することで適正な流通を脅
かすものであること
③ 漁獲量が減少しているものであること
④ 事業者等の負担も考慮し、実行可能性の観点から対応可能であること*2

ナマコ、アワビは、漁業権によって採捕が制限されますが、採捕を認められていない人による密漁の検挙件数が増加する一方で漁獲量が減少しています。また、シラスウナギ(2025年から適用開始)は採捕量の未報告・過小報告が問題となっています(下図参照)。これら3種は2018年の漁業法改正時に「特定水産動植物」として指定され、採捕や「運搬、保管、取得、処分の媒介・あっせん*3」も罰則の対象となり、罰則内容も大幅に強化されました。しかし、この時点では実際に漁獲実態を確認したり違法に採捕された魚や製品を防ぐ状態にはなっておらず、今回の水産流通適正法によってその仕組みができあがったことになります。

 
特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律に関する 参考資料(水産庁)より

 


実際の報告量と算出数量の差が未報告・過小報告の分。ウナギをめぐる状況と対策について(令和4年7月、水産庁)より

 

第二種の基準は以下のように指定されています。

① 外国漁船によって外国法令に反してIUU漁業が行われるおそれが大きいもの
② 資源状況が悪い又は地域漁業管理機関(RFMO)等による資源管理が行われている
又は重量当たり単価が高いもの
③ 日本に一定量以上の輸入がなされている又は輸入が急増しているもの
④ 法執行体制その他の法施行準備の観点から実行可能であるもの*2

今回対象となった4魚種のうち例えばスルメイカは、北朝鮮海域で中国漁船による大規模なIUU漁業の実態が明らかにされています*4。また、サンマやサバはRFMOの管理対象魚種となっています。

違法、無報告、無規制(Illegal, Unreported, Unregulated)に行われる漁業(IUU漁業)は、水産資源の枯渇、人権侵害、水産物の公正な商取引の妨げなどの国際問題の温床ともなっており、SDGsの目標14.4でも撲滅が明記されています。

日本は欧州と米国に次ぐ、世界第3の水産物輸入大国であり、公正な流通の責任が問われる立場にあります。国内で採捕・漁獲される魚種だけでなく、輸入によって海外からのIUU漁業による水産物の国内流通を排除することは、市場国としての責任を果たし、IUU漁業を撲滅するための国際的な協調姿勢を示す第一歩なのです。

ではこの法律でサプライチェーンの企業には何が求められるようになるのでしょうか?

 

水産事業者は何をする?

この法律は、特定第一種と特定第二種とに分けて規制をかけています。そのため、扱う水産物の生産地によって異なる対応が求められます。

 

特定第一種の特徴
特定第一種は日本海域で漁獲された魚種が対象となります。

・対象事業者:対象魚種を漁獲する漁業者・漁協、加工・流通事業者、小売事業者、飲食店、宿泊事業者、輸出事業者
・漁業者・漁協は採捕事業者の届出を、加工・流通事業者、輸出事業者、輸入・養殖事業者は取扱事業者の届出を、事前に農水省または都道府県に提出し番号を取得
・全ての事業者が漁獲番号や、魚種の数量や重量など必要な情報を取扱事業者間で伝達、記録、保管することでトレーサビリティを確保
・輸出には国が発行する適法漁獲等証明書が必要

 

漁業者・漁協

事前に都道府県知事、または農林水産省から届出番号を取得し、その届出番号に基づいて16桁の漁獲番号を付番します。漁獲番号は届出番号(7桁)+取引年月日+任意の番号 (ただし魚種やロットなど何を取引したががわかるようにしておく)となります。
例:届出番号1234567の漁協で2022年12月6日にナマコ(001)を取引する場合
123456720221206001

その漁獲番号と、その他の必要な情報(魚種の名称、届出採捕者の氏名又は名称、重量又は数量、譲渡年月日)を伝票に記載し、取引先に渡し、取引記録を魚種別、かつ、期間ごとなどに分けて3年間保管します。

 

加工・流通事業者

漁業者・漁協と同様に、事前に事業者割振り番号を農林水産省または都道府県から取得します。ただし、加工・流通事業者は荷口の統合や小分けが頻繁に起きるため、複数の漁獲番号の代わりに荷口番号を伝達することもできます。

荷口番号は事業者割振り番号(7桁)+取引年月日+任意の番号 (ただし魚種やロットなど何を取引したががわかるようにしておく)となります。
漁獲番号または荷口番号と、上記の必要な情報を取引先に渡し、取引記録を魚種別、かつ、期間ごとなどに分けてを3年間保管します。

 

小売事業者、飲食店、宿泊事業者

販売先が一般消費者のみの場合は事前の届出や、消費者に漁獲番号や荷口番号を伝える必要はありませんが、事業者に販売する場合は、加工・流通事業者同様に届出番号を取得します。
取引記録も他事業者同様、魚種別、かつ、期間ごとなどに分けて3年間保管します。

 

輸出事業者

事前に事業者割振り番号を農林水産省または都道府県から取得します。さらに、農林水産省から適法漁獲等証明書を輸出ごとに申請します。この証明書は、「法令に違反して採捕されたものではないこと、又は輸入・養殖水産物等であることを証明する*1」もので、税関に提出する必要があります。輸出事業者も他の事業者同様、魚種別、かつ、期間ごとなどに分けて3年間取引記録を保管します。

 

輸入・養殖事業者

第一種に指定されている魚種を取り扱う輸入・養殖事業者は、事前に事業者割振り番号を農林水産省または都道府県から取得します。製品を販売する際は、輸入または養殖水産物であることを伝達します。他の事業者同様、魚種別、かつ、期間ごとなどに分けて3年間取引記録を保管します。

 

* 漁獲番号または荷口番号 ** 一般消費者のみに販売する場合は不要、業務用販売する場合は必要
表内の漁獲番号、事業者振り分け番号は例(*3を元にシーフードレガシー作図)

 

第二種の特徴

特定第二種は海外で漁獲・加工された魚種が対象となります。対象魚種商品の輸入時に、適法に採捕されたことを示す外国の政府機関等発行の証明書等の添付を義務付けるものです。

 

・対象事業者:輸出入事業者
・外国の政府機関が発行する適法採捕証明書や、加工品の場合は、加工申告書がないと輸入できないこともある

 

輸入事業者

輸入時に、その水産物の旗国の政府機関が発行する適法採捕証明書等を添付します。また、旗国以外の第三国で加工、輸入する場合は、輸入時に、その第三国の政府機関等が発行した加工申告書等の添付も必要となります。

 

輸出入業者

国内で漁獲された「第二種」に指定されている魚種を委託加工などのために海外に輸出する場合は、水産庁に適法採捕証明書を申請し、輸出先の国の事業者に提出します。加工品を輸入する場合は、現地の政府が発行する加工申告書等が必要となります。

国産魚を輸出する際に、日本の漁業者(もしくは漁業者が所属する団体)は漁業許可証等の写しや、漁船に関する情報を、産地市場も含む加工・流通事業者はこれら2つに加え、漁獲情報が記載された、伝票等の売買関係書類の写しを輸出入事業者から求められる可能性もあります。

 

改革は中長期的な事業利益への足がかり

前項を見てもわかるように、この法律は水産事業者にとっては、これまではする必要のなかった作業を増やす「厄介物」としてとらえられるかもしれません。そこで事業者の負担を軽減するためにも、現在日本政府では、産地市場以降の関係者による漁獲番号等の伝達や取引記録の作成・保存等の電子化を進めています*3。

また、対象魚種の拡大、欧米の制度やGDSTなどの海外との基準の一致など、解決すべき課題も多く残されていますが、こうした課題を段階的に改善すべく水産基本計画にも記載されているように、2年ごとにこの法律の内容を見直すことになっています。

多くの公的システムがそうであるように、導入当初は課題があっても、運用が安定し、適切に評価、改善を行うことで次第に事業者をはじめとする社会にとってのメリットが生まれるはずです。例えば、漁業者にとっては、漁獲情報が適切に報告されることで資源管理の精度が向上したり、違法な水産物が市場から排除されることによって、市場で公正に競争できるようになります。加工・流通業者にとっては、違法な水産物の調達リスクを回避でき、輸出入業者にとっては、取り扱う水産物の合法性を漁業を管轄する国や組織によって担保されることになります。

国内外から広く認知されている、日本製品に対する高い信頼性に、堅牢なトレーサビリティという新たな付加価値を生むチャンスとして、関係者全体で取り組みを進めていくことが期待されます。

 

 

*1 特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律
*2 「特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律」に関するQ&A(水産庁、令和4年11月)
*3 水産流通適正化制度について(水産庁、令和4年10月)
*4 Jaeyonn Park et al., Illuminating dark fishing fleets in North Korea, Science Advances. 6 (30), (2020)

 

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