漁業者、流通業者、消費者。皆の「連携」で海鳥の混獲削減へ(後編)

漁業者、流通業者、消費者。皆の「連携」で海鳥の混獲削減へ(後編)

鈴木さんは、日本でただ一人の海洋・海鳥保全プログラムのスタッフとしてさまざまな活動に奔走。政府や漁業者、流通業者、一般消費者と、あらゆる方面への働きかけを行なっています。

そんな鈴木さんが今求めているのは、対話と連携。
今回は、参考にすべき海外の事例や、活動への思い、今後の展望などについてうかがいました。(前編はこちら

 

はえ縄漁では効果的対策と国際ルールが確立

——世界では海鳥の混獲に対して、どのような対策が行われているのでしょうか。

RFMOでは、オブザーバーが漁船に同乗して漁をモニタリングするというルールが定められています。ですが、オブザーバーの人数が限られているなどの諸事情で、オブザーバーの乗船率がかなり低いのが実情です。

そして、はえ縄漁で行われている海鳥混獲対策は主なものが3つ。RFMOでは、アホウドリ類の生息域と重なる海域で操業する全てのマグロはえ縄船は、3つの混獲対策のうち2つを実施しなければならないと定めています。

——その3つの対策法について教えてください。

1つ目は「トリライン」。日本の漁業者が考案した対策法で、漁船の船尾に取り付けた長い棒の先から吹き流しやテープを付けたロープを曳航します。漁に使う餌と針に海鳥を近づけないための対策です。


ACAP/BirdLife International
トリライン イメージ

 

2つ目は「加重枝縄」。枝縄におもりを付けて餌と針を早く沈ませます。 海鳥の潜水域よりも深くに早く餌と針を沈め、海鳥が近づく可能性を減らすための対策です。

3つ目は「夜間投縄」。海鳥の活動が少ない夜間に、漁具を仕掛けるという対策です。

バードライフ・インターナショナルには、これらの対策を実践するためのトレーニングなどを行う「アルバトロス・タスクフォース」と呼ばれる混獲対策専門チームがあります。現在は、アホウドリ(=アルバトロス)の生息域における漁業を盛んにおこなっているアフリカや南米の国で活動しています。

 

東京サステナブルシーフード・シンポジウムにて

 

日本の漁業者に今求めるのは、お互いを知るための「対話」

——そういった対策がある中、日本の漁業者には今後どのような協力が望まれますか。

私が今、日本の漁業者に求めているのは対話です。漁業者から多くを学び、その中からお互いの共通点を見出していきたいと思っています。

混獲は漁業者にとっても被害となるものです。はえ縄漁で言えば、本来マグロがかかるはずの針に海鳥がかかってしまったり、餌を持っていかれたりと良いことはありません。私たちもそれを理解した上で、海鳥を守りたいと思っているのです。

かつてオレゴン州立大学で研究をしていた時に、魚を守りたい人と海鳥を守りたい人が二極化し、問題解決の妨げになるという状況を目の当たりにしました。日本ではそのような二極化になってしまわないように、対話を重ね連携したいと思っています。

 


北海道・苫前町の漁師さんの元を訪れ意見交換

 

混獲の削減には、流通業者の協力も求められている

——流通業者には、今後どのようなことが望まれますか。

流通業者は普段から漁業者と仕事をしていますし、消費者に対してメッセージを発信する力も持っていますので、問題解決へ向けての連携には欠かせない存在です。

流通業者にはまず海鳥の混獲があるという事実を知ってもらい、混獲対策をきちんと行なっている漁業者を評価してほしいと思っています。

——流通業者はどのようにして漁業者を評価すればいいのでしょうか。

海外の事例で参考になるものがあります。

イギリスの大手スーパー「asda(アスダ)」が、漁業NGO「SFP(Sustainable Fisheries Partnership)」と共同で行った「混獲監査」です。具体的には、まずasdaが、どこからどの漁法のどんな魚を調達しているかリストにします。それを専門家が分析し、リスクの高いものをピックアップ。バードライフは海鳥混獲の監査を担当させてもらいました。

そして専門家が作成した混獲対策改善点の勧告をもとに、asdaは対話を通して、混獲リスクが高い漁業を行っている漁業者と一緒に混獲削減を目指す流れが構築されています。

日本では魚の絶滅危惧種などに対して行動を起こしている流通業者もありますので、それと同じようなプロセスで混獲に関するリストを作成できれば、asdaの例のような対話も始められるはずです。

——日本の流通業者も対策ができる可能性がありそうですね。

日本の水産物市場は、国内のみならず世界的にも影響力が大きく、グローバル展開をして大量の水産物を輸入している企業もあります。そういった企業に協力してもらうことも大きな意義があると考えています。

例えば、日本漁船のように、台湾漁船の操業域も海鳥の生息域とかなり重なっています。台湾の水産物は日本が多く輸入していますので、日本の市場も台湾に働きかければ状況が変わってくると思います。

そして、日本が率先して海鳥の混獲対策に取り組むことが、他のアジアの国にとってのロールモデルになるはずです。そうした意味でも、バードライフは日本を応援したいという気持ちを非常に強く持っています。

 

業界全体の「連携」が魚と鳥を守る

——今後の展望をお聞かせください。

流通業者に対しては、海外で良い対策事例がいくつも出てきていますので、それを知っていただきたいと思っています。私にコンタクトを取っていただければご紹介できますので、その上で「日本だったらこういうことができるかもしれない」という方向性を一緒に見出していきたいですね。

漁業者に対しては、とにかく現場で、なるべく多くの方とお話をしたいと思っています。お互いを知り、共通点を見出したい。声をかけていただければどこへでも足を運びます。

そして、日本の水産物に関わるあらゆる方と連携を強めたいというのが、今の私の願いです。

以前、宮城県のマグロはえ縄漁業者がMSC認証審査を受けるというときに、海鳥の情報提供依頼をいただいたことがあります。もちろん協力し、その後もつながりが続いています。漁業者が垣根を越えて私たちNGOに声をかけてくださったことが、大変意義のあることでした。

そのように、漁業者にも、流通業者にも、バードライフをサポート役としてうまく活用してほしいと思っています。水産に関わるあらゆる立場の人が皆で連携し、協力して前に進んで行くことを望んでいます。

 


東京サステナブルシーフード・シンポジウムにて

 

 

鈴木 康子(すずき やすこ)
日本の動物病院で獣医師として勤務した後渡米し、ワシントン州立大学、ミネソタ大学の獣医学部で野生動物医学の研修を行う。さらにカリフォルニア大学 デービス校、オレゴン州立大学で海鳥の研究に従事し、修士号、博士号を取得。2018年に帰国し、バードライフ・インターナショナルに所属。
バードライフ・インターナショナル:https://tokyo.birdlife.org
メールアドレス:yasuko.suzuki@birdlife.org

取材・執筆:河﨑志乃
デザイン事務所で企業広告の企画・編集などを行なった後、2016年よりフリーランスライター/フードコーディネーター。大手出版社刊行女性誌、飲食専門誌・WEB、医療情報専門サイトなどあらゆる媒体で執筆を行う。