フェアトレードフィッシュ 生産者の幸せも美味しさのうち

フェアトレードフィッシュ 生産者の幸せも美味しさのうち
Photograph by Alistair Calderon © 2016 Fair Trade USA
キャプション:メキシコ、アルタタ小学校の6年生。多くの漁師の子どもが通っており、教室の空調の導入にフェアトレードプレミアム(奨励金)が使われている。

市場規模が拡大するフェアトレード商品

5月はフェアトレード月間です。フェアトレードの認知度を高めようと今年はフェアトレードミリオンアクションキャンペーンも行われています。

フェアトレード(fair trade)とは直訳すると「公平・公正な貿易」。つまり、主に開発途上国の商品を適正な価格で長期的に購入することにより、生産者の生活改善や自立をめざす取引を意味します。

たとえば、コーヒーやチョコレートの原料となるカカオ、洋服の原料となる綿花などの多くは、労働者が低賃金で働かされ、低価格で取引されています。その結果、生産者の暮らしは厳しく、子どもたちが十分な教育を受けられないため貧困が常態化するという負の連鎖が問題になっています。

フェアトレードはこうした問題を解決するため、労働者の権利を守り、対等な取引を行うことによって、生産者の暮らし、地域社会の発展をはかっていくことを目的としています。

フェアトレード商品の市場規模は年々拡大しています。フェアトレードの認証ラベルとしてよく知られている国際フェアトレード認証商品の世界全体の市場規模は1兆742億円(2017年)。国内推定市場規模は約124億3600万円(2018年)と10年前の約6倍にもなっています※1。


左下、水色の丸で囲っているものが国際フェアトレード認証ラベル

 

水産物におけるフェアトレードの動き

国際フェアトレード認証の対象には残念ながら魚介類はないのですが、Fair Trade USAという米国のNGOが2014年から世界で唯一、魚介類を対象にフェアトレード認証を行っています。養殖の水産エコラベルであるASC認証とも連携しており、天然、養殖共に認証対象になっています。認証の取得にあたっては、Fair Trade USAが定める基準を順守できているかどうか、書類を提出し、審査を受ける必要があります。基準としては、労働者の人権や安全な労働環境の確保、適切な労働賃金の支払いなどがあり、トレーサビリティーや透明性の確保も求められます。また国際フェアトレード認証同様、地域の発展のために活用できるプレミアム(奨励金)の支払いも求められます※2。

写真右端、水色の線で囲ったものががFair Trade USAの認証ラベル(Fair Trade USA Facebookより)

 

現在、世界中で13の漁業者がFair Trade USA認証を取得し、世界中で1万人以上の漁師が認証を得た組織で働いています※3。認証システムを経て得られたプレミアム(奨励金)は150万ドル以上にものぼり、その内の30%は漁業改善プロジェクト(FIP)や生息地の回復、IUU(違法・無規制・無報告)漁業に対する地域活動に使われています※3。

Fair Trade USAのウェブサイトでは、フェアトレード認証を得たシーフードを販売する24のメーカーが取り扱うマグロやエビ、帆立などの商品が紹介されています。スタッフのブレイク・ストックさんによると、Fair Trade USAが認証したフェアトレードシーフードは、残念ながら日本での取り扱いはありませんが米国を最大のマーケットとして、ヨーロッパ、ラテンアメリカにも広がっているそうです。

Photograph by Alistair Calderon © 2016 Fair Trade USA
メキシコでフェアトレード認証を受けたエビの仕分け作業をするマリア・ロドリゲスさん。この仕事のおかげで子どもたちに教育を受けさせることができたという。

漁業労働者の人権、日本は?

日本に輸入されるエビやタコ、イカなどの魚介類の生産・加工にも多くの開発途上国がかかわっています。その意味では、魚介類の適正価格での取引、労働者の人権の遵守は日本の水産業界の課題でもあります。また昨今、国内でも外国人労働者の労働条件や労働環境が社会問題化しつつあります。

昨年、2020年10月、日本政府は「ビジネスと人権」に関する2025年までの国別行動計画(NAP)を策定しました。これは2011年に採択された「国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)」に基づくもので、欧米では企業に人権の遵守状況を報告させるなど厳しい政策が打ち出されています。こうした世界的な流れを受け、先日、世界第二の規模の国際水産企業である日本水産はCSR委員会の下に人権部会を設置したと発表しました。水産業界でも徐々に人権問題に対する取り組みが進み始めています。

美味しい魚は、漁獲や加工にかかわる人が幸せな暮らしを営めてこそ。

フェアトレードのコンセプトはサステナブル・シーフードの必須要件とも言えるのではないでしょうか。

 


※1 認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン
https://www.jeijc.org/wp-content/uploads/2019/08/20190817-2.pdf

※2 地域の経済的・社会的・環境的発展のために使用できる資金。輸入組織により品物の代金とは別に支払われる。教育や保健衛生の向上、地元産業の発展などに使われる。使途は生産者などによって民主的に決められる。

※3 認定を受けた13組織の内、12は天然魚の漁業、1は養殖。
Progress Toward Sustainable Seafood –By the Numbers,the David & Lucy Packard foundation, 2020.6
https://oursharedseas.com/wp-content/uploads/2020/06/2020-Progress-Toward-Sustainable-Seafood-%E2%80%93-By-the-Numbers.pdf

参考:Fair Trade USA      https://www.fairtradecertified.org/
フェアトレード ジャパン https://www.fairtrade-jp.org/