8月5日(月)都内にて第6回ワークショップ「サステナブル ・シーフード」に対する消費者の反響を知る!BtoCの取り組み事例やその伝え方とは」を開催しました。
今回のワークショップでは、これまでのワークショップのアンケートから浮かび上がってきた、サステナブル・シーフードの意義はわかるがその普及のための取り組みを事業化しにくい、消費者へのコミュニケーションが難しいなどの課題への対応を、BtoC企業や海だけではなく様々なエコラベルについて知見のある団体の事例から学びました。
一般社団法人日本サステナブル・ラベル協会 代表理事
株式会社FEM 代表取締役 山口真奈美氏
近年耳にするようになってきた「エシカル消費」。これは「環境」、「社会」、「経済」、特に地域創生に貢献する消費行動を指します。これら3つの並立は持続可能性の定義とも同じ。つまり、エシカル消費とは持続可能な社会を作るための行動なのです。山口氏はエシカル消費を促すため、持続可能な農水産物など国際認証ラベルの普及活動に長年携わってきた「エシカル消費のプロ」。
ワークショップでは、消費者が購買の際に認証を判断基準にすることが普及しつつあるスウェーデンの事例を紹介しました。スーパーでは水産物コーナーに認証ラベルのポップを設置、天井からは様々な認証ラベルが並べられた特大ポスターが吊り下げられています。さらに施設自体が認証を取得しているホテルも。環境に配慮した製品の利用を厳格に定めた調達方針を策定し、宿泊部屋のアメニティから朝食まで認証製品があらゆる場面で提供されています。レストランではメニューに認証ラベルが記載され、店員が説明できる体制が整えられています。世界では今、このように繊維、観光など様々な分野が横串で「サステナビリティ」を展開する潮流が見られているのです。また、山口氏は「どのラベルも経済、環境、社会、管理ガバナンスの担保について伝え、同じものを求めている。エシカル消費とサステナブルがよく分断されるが、それをつなげるサプライチェーンをどのように作っていくかが今後の日本のコミュニケーションにとって大事だ」と語りました。
楽天株式会社 サステナビリティ部 シニアマネージャー 眞々部 貴之氏
次に登壇したのは楽天株式会社の眞々部 貴之氏。ECモールのイメージが強い同社とサステナブル・シーフードはどのような関わりがあるのでしょうか?
実は楽天は創業時から「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」をミッションとしています。この「エンパワーメント」にはより良い社会を形成するために協力する、そのために自律する力をつけるという概念も含まれていることから現在、持続可能な消費の促進を重要課題とし、ビジネスとしてのサステナビリティの実現に取り組んでいるのです。
その取り組みの一つが眞々部氏が率いるEARTH MALL with Rakuten。日本初のサステナブル、オーガニック製品などを販売するECモールです。しかし現在の取扱商品数は12,000点と楽天市場全体(2.5億点)の0.005%。そこで眞々部氏らは何が消費者のサステナブルな製品(この調査ではオーガニックとフェアトレード製品が対象)に対する購買意欲を喚起するのかを知るためにアンケート調査をユーザー9,631人に実施しました。すると、サステナビリティについて知っていて買う人が14%、知っていて買わない人は7%、知らないが買う人は31%、知らないし買わない人が47%という結果になりました。
ユーザーのサステナブルな製品に対する認知度(調査結果を元に作成)
さらに同じ人たちに、少し高い物を買うことについて別のアンケートを実施したところ、事実に基づいてポジティブなメッセージを伝えると次の購買意欲につながることがわかりました(例:本商品は環境に負荷の少ない手法で栽培されています。環境に有害な方法で農作物が育てられていることを知っていましたか?….)。さらに、こうしたメッセージは身近な人から伝えられると、より行動に変化が生まれることもわかりました。
今回のような調査を今後も継続し、より効果的な伝え方を見つけ、発信していきたいと眞々部氏。EARTH MALL with Rakutenがきっかけで自社製品がMSCを取得したことをアピールしていく気になったという声も生産者からは上がっている、とのこと。、今後の取扱数の増加が楽しみですね。
株式会社キシマ 商品部 企画開発 室長 杵島 弘晃様
株式会社キシマは1966年の創業以来、海鮮和食を中心とした飲食業を経営し、現在神奈川県に海鮮・会席料理「日本大漁物語きじま」6店舗を構えています。組織改編を機に、この先5年、何十年とお客様にどのように提供していくのかを考え直し、新たにミッションを「食を通じて持続可能な共同体の創造と発展に寄与する」としました。
そしてその実現のために、「安心・安全な食材の追求」「持続可能な海の幸の利用」「有機・自然栽培の野菜の選択」「合成界面活性剤の撤廃」に取り組んでいます。
具体的には、食品添加物の排除、水産物についてはメニューにASC認証を取得した魚を利用し、メニューでロゴを表示するようになりました。さらに海洋環境や生態系にも配慮し、石鹸メーカーと協働で独自に石油由来の合成界面活性剤を使用しない洗剤を開発、使用しています。さらに、塩素を使わない漂白剤も現在開発しています。
水産物に関する同社ならでは取り組みが、独自に作成した従業員用のポケットサイズのマニュアルです。このマニュアルは従業員がいつでもお客様からの質問に答えられるために作られ、MSCやASCとは何か、やその意義についてまとめてあります。さらに理解を深めるため、全社員向けの社内研修も行われています(研修に参加できなかった人向けにDVDも作成し、各店舗に配布!)。社内理解の促進が進む一方で、サステナビリティと美味しさが結びついていないことが課題であり、飲食店として今後その2つを結びつけていきたいと杵島氏。「消費者のマインドは世界共通なので経営者によって差が生まれる。そのマーケットのシェアをどれくらい変えられるかは経営者が決めている」と話しました。
参加者の皆様を3グループに分け、敢えて自己紹介せずにざっくばらんに、サステナブル・シーフードの認知度を上げるためには何をすべきかを議論いただきました。規則や条例の改正、メディア、教育、家族間でのコミュニケーションなど多様な意見が発表されました。伝え方にもSNSから、レストランのメニューでの表示、など目に見える形で露出を増やすことがカギとなりそうです。
今、水産物に限らず全ての企業が、自社や自社製品の認知度をいかに早く効率的に向上させるのかを模索しています。水産資源の持続可能性は残念ながら、他の資源に比べ、末端消費者がその大元を想像することが難しい状況にあると言わざるを得ません。インターネットで自由に情報を取りに行ける時代に、現場に思いを馳せさせる工夫をサプライチェーン、教育機関、メディアなどが連携して作る必要が求められています。