CEOブログ:漁獲証明制度法制化の動きを知る

CEOブログ:漁獲証明制度法制化の動きを知る

皆さんこんにちは。シーフードレガシーCEOの花岡和佳男です。

2020年6月19日、「漁獲証明制度」のあり方についての水産庁案がとりまとめられました。「漁獲証明制度」とは、国内流通水産物、輸出水産物、輸入水産物それぞれの対象魚種において、漁獲物が合法的に獲られたことを示す「漁獲証明書」の提示を法的に求めるもの。資源管理の徹底、IUU(違法・無報告・無規制)漁業の撲滅、輸出の促進などを目的として、いま日本で法制化の動きが進んでいます。

IUU漁業の撲滅は、日本および世界中の水産業の持続可能性を追求する上で避けては通れない、解決すべき緊急国際課題。そのため私はこの一年、複数の立ち位置から、日本の「漁獲証明制度」の法制化の動きに携わってきました。

このブログでは、私が特に注目する輸入水産物に焦点を当て、私が携わったこれまでのプロセスと、今後の動きにおける注目点について、ポイントをまとめます。

IUUリスクとは

世界各地に蔓延るIUU漁業は、国際協力の基に成り立つ資源管理の精神を蔑ろにするものであり、水産業の持続可能性にとって大きなリスク。我慢して漁獲を抑え資源管理に協力する責任ある漁業者の努力が報われ正当に評価されるようにするためにも、ルールの網の目を潜るIUU漁業の撲滅は緊急課題です。世界全体の漁獲量の13-31%(重量ベース)が違法・無報告で漁獲されたものだとする推計があります。(詳しく知る>>>サプライチェーンにひそむ違法漁業と人権侵害のリスク)

 

日本の立ち位置

世界最大&第二の水産物輸入市場であるEUとUS(金額ベース)では、IUU漁業に由来する可能性がある水産物を市場に入れない制度があります。こうして欧米で排除されてきた水産物は、世界第三の水産物輸入市場であり輸入時にIUUに関するスクリーニングを行わない日本に大量に流れ込んでいると考えられており、責任ある漁業者の市場や漁場を荒らし、消費者をも知らぬ間に加害者にしてしまっています。日本が輸入する水産物の24-36%(重量ベース)がIUU由来の可能性があるとする推計があります。(詳しく知る>>>トレーサビリティ確保と規制導入で違法な魚を日本市場から排除する

日本市場が晒される輸入水産品リスク(2018年5月発行):クリックしてダウンロード

 

これまでの流れ

2018年12月 適切な資源管理と水産業の成長産業化を両立させるため、約70年ぶりに漁業法が大規模に改正。漁業権や資源管理など、漁業生産に関わる基本的な制度が見直されました。
2019年9月 その水産革命の流れの中で「漁獲証明制度に関する検討会」が水産庁に発足。水産サプライチェーン上の事業者をはじめとするマルチステークホルダーによる議論が始まりました。
2020年3月 国際NGOなどにより構成される「IUU漁業対策フォーラム」が、IUU漁業撲滅に必要な政策導入を求めて、「IUU水産物の輸入及び国内市場における流通の防止に関する共同提言」を発表。水産庁を訪問し山口英彰長官に提出しました。
2020年4月 漁業法改正関連政省令の整備や漁獲証明制度の創設の重点的フォローアップなどをアジェンダに持つ「内閣府 規制改革推進会議 農林水産ワーキンググループ」にて、漁獲証明制度法制化における進行状況の確認・点検が行われました。
2020年6月 議論・調整の末、「漁獲証明制度に関する検討会」のとりまとめ資料が発表されました。

 

今後の注目点

日本で漁獲証明制度が法制化され、IUUリスクを輸入時に排除する制度ができることは、日本の水産業を守る上でも、国際的な社会問題の解決に貢献する上でも、とても大きな意義があります。利害が必ずしも一致しない多様なステークホルダーによるセンシティブな議論がこのたび無事にとりまとめられたこと、関係者全員が一定の納得感を持って前を向ける形を作れたことは、次に続く大きな一歩だと評価します。その上で、この先、この動きを形骸化させず確実に効果を生むものにするために、私は以下の2点が特に重要だと考えます:

  • 注目点1. 対象魚種:この先、輸入規制の対象魚種を決めるプロセスが始まります。対象種を絞りすぎず、生産者までのトレースバックができないもの、輸入量が多いもの、高価なものなど、リスクがある可能性のある種を幅広く対象に指定していくことが大切です。EUでは輸入する天然水産物の全魚種、USでも輸入額の約40%を占める13種が対象になっています。
  • 注目点2. 電子化と様式の統一:不必要な輸入障壁を作らないための細やかなケアが肝心です。輸入時に必要な漁獲証明書を電子化し、またその様式を欧米等のものと整合させ、事業者の手続きの迅速化や負担軽減を図ることが求められます。

 

漁獲証明制度の法制化を取り巻くビジネス環境

2018年、マルハニチロ、日本水産、極洋など、世界の水産大手企業10社により構成される海洋管理のための水産事業を推進する国際組織「SeaBOS」は、国際課題であるIUU漁業の撲滅やトレーサビリティーの徹底などを共同コミットメントとして世界に公表しました。(詳しく知る>>>科学とビジネスの連携で、世界の水産業を動かす)

2019年、日本企業を多く含む世界の水産大手企業のSDGsの取り組みを評価するベンチマークが専門機関により発表され、ESG投資家が水産企業の自然資本の扱い方に関心を寄せ始めました。(詳しく知る>>>他人ごとではない、自然資源と食料システムを支える投資

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大が人類の健康と経済を揺るがし、グローバルサプライチェーンの長さや脆弱さ、また自然と経済のサイクルがそもそも噛み合っていないことに由来する様々なリスクが顕在化しています。企業にとっては、長期視点での成長投資や経営リスクへの対応が、ビジネス存続に欠かせないパスポートとなってきています。

今回の漁獲証明制度の法制化において、ニューノーマルの時代に日本の水産業の持続可能性を追求し、成長産業化を実現させるには、輸入水産物の規制における①幅広い対象魚種の設定、②漁獲証明制度の電子化、③様式の統一の現実をセットで推し進めていくことが鍵になると考えます。リスクヘッジだけでなく、電子化やトレーサビリティ本格導入など、いくつもの新たなビジネスチャンスを生み出すこの動き、水産資源の持続的な活用を可能にするための、多くの事業者が乗れる強くて大きな波にしていくことが求められています。

 

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