昨年12月に公開された「持続可能性に配慮した水産物の調達基準(案)」がパブリックコメントの募集と委員会による協議の上、3月末に「持続可能性に配慮した調達コード(第 1 版)」として発表されました。今回は、この調達コードがドラフトとどう変わったのか、そして2020年のオリンピックで提供される水産物について検証します。
2017年3月24日公開:「持続可能性に配慮した調達コード(第1版)」⇒こちら(水産物はp.48〜)
2016年12月公開:「持続可能性に配慮した水産物の調達基準(案)」⇒こちら
パブリックコメントと回答について⇒こちら(水産物はp.47〜)
こちらの図は2月に行われた最終のワーキンググループディスカッションで公開された資料の一部です。(第13回資料p.65参照)今回発表された調達コード第1版とほぼ同じ内容となっています。調達の原則コードが<要件>下の①〜④であり、それを確認する方法として右のア〜エが挙げられます。
「MEL、MSC、AEL、ASC による認証を受けた水産物については、上記2の①~ ④を満たすものとして認める。このほか、GSSI(Global Sustainable Seafood Initiative)による承認も参考にして、FAO のガイドラインに準拠したものとして 組織委員会が認める水産エコラベル認証スキームにより認証を受けた水産物も、上 記2の①~④を満たすものとして同様に扱うことができるものとする。」
-調達コード(第1版)より抜粋
今回の基準では国際的な水産物のエコラベルとして認知されているMSC/ASC認証と、日本独自のスキームであるMEL/AEL認証が推奨されています。今回新しく追加されたのが「GSSI(Global Sustainable Seafood Initiative)」承認を特定のエコラベル認証スキームがFAOガイドラインを満たしているかの判断材料として参考にする、という文言です。MEL/AEL認証についての問題は過去のブログでも触れていますが、現時点ではFAOのガイドラインには準拠できておらず、GSSIの承認も受けていません。しかしながら、MEL認証は新体制のもと、GSSI承認取得に向けての改革が進んでおり、現に新しい認証段階の規格(案)が5月中旬までパブリックコメントを募集しています。(MELについてはこちらをご覧ください。)オリンピックまであと3年、MEL/AEL認証の基準の底上げに期待が集まります。
イ、ウに記載のある管理計画は具体的には「資源管理計画(天然)」と「漁場改善計画(養殖)」のことを指します。これについては学習院大学教授の阪口功氏は下記のようにコメントしています。
「(資源管理計画、漁場改善計画)ともに漁業者が自主的に策定し、行政の確認を受ける仕組みであるが、両計画を認めることで9割の国産水産物の調達が可能となる。しかし、日本の沿岸資源は半数が低位にあり、資源管理計画の有効性が疑問視される。」
-みなと新聞連載記事より
今回の調達基準では国産の魚が優先される仕組みになっています。世界に誇る魚食文化と新鮮で美味しい魚で海外のゲストをおもてなしする…国際的なイベントで日本をアピールする最もな方法です。しかしながら、この基準ではIOCが進めてきた環境保全や資源の持続可能な利用といったオリンピックの基本政策において過去2大会から後退する内容になってしまいます。
認証取得を目指した改善計画は一般的にFIP:Fishery Improvement ProjectやAIP:Aquaculture Improvement Projectと呼ばれる「漁業/養殖改善計画」のことを指します。漁業者の認証取得をサポートする一環として調達基準にFIP/AIPが取り入れられることは東京大会が初めてとなる新しい試みです。12月のドラフト時にはFIP/AIPに関する記載はなく、パブリックコメントが反映されたかたちとなります。昨年11月に発表された日本初のFIP、「東京湾スズキ漁FIP」に続き、これを機に日本各地でFIPやAIPといった国際基準の認証取得に向けた活動が活発になることが期待されます。
2020年の開催に向けて着々と準備が進む中発表された今回の調達基準。「日本の水産物を世界に向けて発信する」そして「持続可能な漁業をオリンピックを機に日本のマーケットに定着させる」という2つの試みが交錯した結果、「国産の水産物の発信」が重視されるかたちとなりました。衰退する日本の水産業を盛り上げるためにも海外へのアピールはもちろん欠かせません。しかし、アピール先の海外では「持続可能性」が新しいスタンダードとして定着しており、この先も長く良質な日本の水産物を海外に輸出していくためには「国際基準の持続可能性」が重要な鍵となってきます。3年後のオリンピックをは通過地点であり、ゴールではありません。世界に誇る豊かな漁場と歴史のある魚食文化を持つ日本が世界の水産業をリードしていくためにもグローバルな広い視野と明確な長期目標、そしてそれをサポートするマーケット、消費者、行政間の連携が欠かせません。
シーフードレガシーは、今回の調達コードをベースラインとし、マーケットにはより一段高い内容の基準作り(調達方針やトレーサビリティーなど)を推奨いたします。具体的な取り組み案についてはこちらのブログ記事をご覧ください。
出典:
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(2017年3月24日)「東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会持続可能性に配慮した調達コード(第 1 版)」(別途2-4持続可能性に配慮した水産物の調達基準),[online]https://tokyo2020.jp/en/assets/news/data/20170324_EB_docs.pdf
阪口功(2017)「第15回東京オリンピックと日本の水産業の将来」,『みなと新聞』2017年4月14日付