年に一度行われるシーフードサミットでは、サステナブルシーフードに関する活動を行う個人や団体がアドボカシー、イノベーション、リーダーシップ、ビジョンの4つのカテゴリーで表彰される、シーフード・チャンピオン・アワードが発表されます。100以上もの候補者の中から選ばれるチャンピオン達。実は2016年にマルタ島で行われたシーフードサミットでは、日本からも「海の幸を未来に残す会」と「壱岐市マグロ資源を考える会」がファイナリストに選ばれました。2017年はどのような活動がチャンピオンに選ばれたのでしょうか。今回はサステナブルシーフード界のトレンドを知る上でも重要なシーフード・チャンピオン・アワードの受賞者とその活動をご報告いたします。
(ステークホルダーへの呼びかけやメディアを活用し、政策や社会に影響を与えた個人、または団体)
なんと今年のアドボカシー・チャンピオンは2組が選ばれました。まず1組目は先日のブログでも紹介したInternational Pole and Line Foundation(以下IPNLF)です。IPNLFは以前ブログでも紹介したモルディブを中心とするインド洋の一本釣り漁業とマーケットをつなぐNGO。彼らの活動は漁業者からマーケット、そして政府との合同プロジェクトと多岐に渡り、モルディブの一本釣りカツオのブランディングの成功の他、IOTC(インド洋マグロ類委員会)の資源管理にも大きな影響を与えました。この強い影響力が高く評価され、この度チャンピオンに選ばれました。
そしてもう1組の受賞者はなんとシェフ。バンクーバー水族館をベースとし活動するNGO、Ocean Wiseの総料理長であるネッド・ベル氏です。2014年には自転車でカナダを横断、各地のシェフとのコラボレーションイベントを通して、レストランや消費者に向けてのメッセージを発信するなど、積極的な活動が高く評価されました。なんとベル氏の前職はフォー・シンボルズ・ホテルの総調理長。ハイエンドから一般的なレストランまでを巻き込むカリスマ性を持ち、カナダのレストラン業界に「サステナブル・シーフード」という新しいスタンダードを定着させました。Ocean Wiseのレストランパートナーはカナダ全土で700以上と広がりを見せています。
International Pole and Line Foundation (インターナショナル・ポール・アンド・ライン)
Ocean Wise/Ned Bell (オーシャン・ワイズ/ネッド・ベル)
(持続可能な水産業において強いリーダーシップを発揮した個人、または団体)
2014年からインドネシアのIUU漁業や奴隷労働といった問題に積極的に取り組んでいる、スシ・プジアストゥティ・インドネシア海洋水産大臣がリーダーシップ部門のチャンピオンに選ばれました。水産業界で働く女性に注目が集まる中、彼女は「スーパーウーマン」と呼ばれる存在で、IUU漁業や奴隷労働など深刻な問題を抱えるインドネシアの漁業に革命を起こしました。グーグルも開発に関わったGlobal Fishing Watchに対してインドネシア籍の漁船のVMS情報を公開するなど次々とイニシアチブを発揮しています。
Susi Pudjiastuti (スシ・プジアストゥティ)
(持続可能な水産業の普及を促すような明確なビジョンを持つ個人、もしくは団体)
こちらもなんとシェフが受賞。カリフォルニア、モントレーベイ水族館の総料理長として活躍するマット・バウディン氏です。モントレーのレストランの購買網をローカライズすることで地域の小規模農場や漁業を支援する仕組みを作り上げました。モントレーベイ水族館のレストランで使用される材料の多くは水族館の半径90マイルの範囲から調達されているそうです。地元での活動の他、各地に出向き、Seafood Watchのや水産物の責任ある調達の普及活動を積極的に行っています。
(画期的な方法や手段を用い、問題解決へ取り組む個人、もしくは団体)
イノベーション部門ではFish-i Africaがチャンピオンに選ばれました。Fish-i Africaは東アフリカ8カ国がIUU漁業に関する情報や規制を共有し、より大きなスケールでIUU漁業撲滅に取り組むためのパートナーシップです。今回、この枠組みが発足したことで途上国はIUU漁業に対して消極的である、という概念が大きく変わりました。共通の問題を持つ国が協力することでより効果的、そして低コストでIUU漁業への対策が進むとへの期待が高まっています。
今回43の国から115の応募があったシーフード・チャンピオン・アワード。各部門の受賞者からも窺えるようにIUU漁業や消費者を巻き込む運動に注目が集まっています。持続可能な水産業が定着するためには、IUU漁業などを厳しく規制する罰則と、消費者からの需要を作り出すことが欠かせません。様々な団体が連携し、それぞれのターゲットへの働きかけを戦略的に行ったことで歯車が上手く噛み合い、大きなムーブメントが生まれたことが欧米のサステナブルシーフードマーケットの成功の鍵かもしれません。
今年の受賞者の数名は毎年秋に行われる東京・サステナブル・シーフード・シンポジウムにも登壇予定です!どうぞお楽しみに!